オーダースーツ札幌
小景コラム
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STYLE EVERLASTING

 

Fred Astaire 1899-1987     

ミュージカル作曲家コール・ポーターの甘く切ないメロディに乗って、ふたりは現れた。
When they begin the beguine. It brings back the sound of music so tender...
フレッド・アステアとエレノアー・パウエル。
二大スターによる華麗な揃い踏み【Bloadway Melody of 1940】
スポットライトが照らした踊る影には、サイレント映画からトーキー映画にシフトした時代の躍動と、郷愁が交差する。

それぞれ、幼少から各地のボードビル(大衆演芸場)で研鑽(さん)を積んだ筋金入り。ブロードウェイの天才少女は発展著しい映画界へと瞬く間に飛躍した。一方、ハリウッドへ乗り込んだ青年アステアへのオーディション評価は、次の通りだったという。
“Can't act(演技下手)、Can't sing(歌も下手)、Sligtly bald(髪は薄い)・・・Also dences(踊りも同様)”

薄氷のごときショービジネス界で、アステアはとどまることなくステップを踏みつづけた。タップダンスのさばきにバレエの要素を昇華させたそのコンビネーションは、唯一無二。ソロはもちろんのこと、相方の女優と寄り添うワルツも至芸の域に達する。とりわけジンジャー・ロジャースやリタ・ヘイワースとの二人三脚ぶりは、およそ天井知らず。かくしてこれに影差すものは、スポットライトだけではない。観衆の熱を帯びた視線がうごめく。
“気分がブルーなときは、そう。めかし込んでさ、繰り出そうぜ。シルクハットにカッタウェイ・コート、ステッキも持てば完璧だ。まるで千両役者よ。さあ行こうぜ・・・” アーヴィン・バーリン作曲Puttin' on the Ritz. きっぷよく唄い踊るさまに人々は酔いしれ、なにかを投影した。ときを越えてそれはつづく。

アステア=スタイルと称されるほど、彼の表現には流儀がある。言うなれば大衆文化と貴族趣味のブレンド。装いに関しても、そのさりげなく洗練されたセンス 【by natural grace】が後世に与えた影響は計り知れない。フランネル地で仕立てたスーツのシルエット、ボタンダウンカラーのシャツ、華奢な体躯をほど良く包むもの一切が、柔らかな曲線によって構成される。ながい手足がダンスで映えるよう、調和のとれたジャケットの丈やトラウザースのゆとり。ちらりと覗くスエード靴に至るまで、そのバランス感覚はじつに心憎い。


 

Lord Laurence Olivier 1907-1989

シェイクスピア劇を地で行く役者は少なくないが、この場合は素地が違う。演劇に賭ける自己実現が大きくなるほど、互いに愛するひとを苦しめた。
ローレンス・オリヴィエとヴィヴィアン・リー。
在るべきか、在らざるべきか・・・それが問題だ。

彼女が放つ星彩は、深紅(スカーレット)のルビーそのもの。相対する彼は、さながらゴールドのリング。
このうえなきパートナーとして羨望の的だが、やがて劇壇の評価はルビーよりもゴールドの台座へと傾く。
異なる性質がふたりの行く先を分けた。ゴールドは延性展性に富み、かたちをかえられる。鍛錬しだいで如何様(よう)にでも。生ける宝石には酷に尽きる。

のちに舞台演出、映画監督業にまで活躍の場を広げた彼は、生涯現役だった。なにより役どころ、懐の大きさは特筆に値する。一連のシェイクスピア劇や同輩ヒッチコックのハリウッド進出作【レベッカ 1940】など、人知れず悩み深き紳士を演じれば、右に出るものがない。
一転キャリア後期には、【探偵・スルース 1972】で奇しくも劇界の後輩マイケル・ケインと密室劇に興じ、極めつけは異色作サスペンス【マラソンマン 1976】で冷血非道なナチ残党役に怪気炎をあげていた。病を圧(お)しての撮影だったという後日談だが、爵位を授かるほどの第一人者がそこまでして、卑劣漢さえ嬉々と演じるところもまた彼らしい。福田恒存曰く【人間・この劇的なるもの】哉。

一目置かれる御仁には、ダブルブレステッドスーツのかさなりが双璧をなす。なだらかな肩線から胸にかけてはいくぶんゆとりをもたせ、なおかつウエストラインに沿わせる。縫い合わされた生地がたわみ、有形無形の抑揚(ドレープ)が威厳と風格を醸し出す。時にそこはかとなく時に大胆に・・・
ダブルのジャケットではボタンを留めたまま着座するため、デザインと着心地の兼ね合いがより重要となります。


 

Yves Montand 1921-1991

不穏な時代、中米の砂漠地帯に日照りがつづく。酒場で蜷局(とぐろ)を巻く男たちには、まるで生気がない。
油田採掘をエサにはるばる海を渡ってきたが、すでに空きは埋まっていた。
こんなはずじゃなかった・・・来る日も来る日も待ちぼうけ、焦りはいつしか諦めにかわっていく。
【恐怖の報酬 1952】の幕開き、若きイヴ・モンタンは窓辺でシャツをはだけ、空を仰いだ。ときおり薄汚れた紙片を眺めてはもてあそぶ。お守り代わりのパリの地下鉄切符だった。
郷(さと)はあれども帰るを得ず。
酒場の娘が一瞬、掃除の手を休めて彼にウインクを送った。基(もとい)この世の果てでさえモテる男は隅に置けない。
突如、遠方の油田で火災が発生。鎮火に必要な爆薬ニトログリセリンを満載、現場へ運ぶ仕事が舞い込む。彼はトラックの運転を志願し、一触即発いざ荒野の決死行へと発たん。

歳をかさねても、あの当時の面影をずっと宿していた。黒々とした髪には白髪が混じり、目元には深い皺が刻まれようとも、芯の熱さは変わらない。ひとたび【サヴァ? 元気かい 】と声を掛ければ、誰もが笑顔で振り返る。そのあたたかさは、炭火が熾(おこ)るかのように人を引き寄せて離さない。
また彼は、公私で左派のイデオロギーたる地歩を両立したパイオニアであった。
60年代のギリシア内乱を取り上げた政治告発、コスタ=カヴラス監督【Z 1969】では、そのカリスマ性から反体制の急先鋒に祭り上げられ、非業の最期を遂げる役。
矜持と憂(うれ)い。以降もJ=P.メルヴィル監督作【仁義 1970】やクロード・ソーテ監督作【夕なぎ 1972】【友情 1974】など円熟味をたたえたドラマが揃う。名匠らが彼を起用し続けたのは、一瞬の表情やしぐさに見え隠れする機微が、フィルムにト書き以上の奥ゆきを与えた所以。

その情感、彼のルーツは歌手にある。名曲【枯葉 les feuilles mortes】の風情には、ダークスーツの胸元に冷気吹きこむくらいがちょうどいい。ネクタイで身構える気にはなれない、男の気どりとやせ我慢。そんなときにはワンピースカラーのシャツで余韻に浸る。折り返す襟と頸に沿う生地分を一枚裁ちで仕立てたもの。襟を開けて着たときの、返り柔らかな丸み(ロール)が特徴。これと合わせて身頃の前立て(ボタンを縫い付ける生地分)を内側に折り返したフレンチフロント仕様が体(たい)を成す。

 

Alain Delon 1935-

夢に見た新天地、窓の外は雪だった。
長旅の果て、目の当たりにする光景に浮き足立つ。
夜更け、ミラノ中央駅に降り立ったバロンディ母子(おやこ)に、出迎えの者は現れない・・・
ルキノ・ヴィスコンティ監督作【若者のすべて 1960】の原題は【ロッコとその兄弟たち】という。五兄弟の三男ロッコ=アラン・ドロンを軸に、寄る辺なき家族がたどる運命は、軋(きし)む荷車のごとくゆっくりと傾きを変えながら、地を這(は)う。

大戦後、経済社会の変容に翻弄されたのは洋の東西を問わず。都市への人口流入はイタリアでも深刻さをきわめる。南北の経済格差。1950年代後半、北部の工業都市圏には2万人以上がなだれ込んできたという。このうち果たしてどれだけの者がまともに食い扶持(ぶち)を得ただろうか。想像に難くない。

家族が落ち着いた先はアパートの半地下。凍てつく朝、天井近くの小さな窓から雪積もる街路が覗く。今日は仕事があるだよ!マンマは小躍りしながら息子たちを起こしてまわる。雪かきの日雇いだった。メリヤスの肌着もそぞろに熱いコーヒーを飲み干す間もなく、兄弟たちはマンマにキスをして駆け上がった。広場の遠景ではそうした男の後ろ影がひとつ、またひとつと点描画のごとく雪のキャンバスを滲(にじ)ませてゆく。
ここに血の色が混じることをまだ知る由もない。

やがて一家の旗頭となったロッコは、遠い目をして末弟のルカに聞かせた。
“ いつか俺は故郷(くに)へ帰る。いまはとても無理だが・・・しかし俺たちのうちの誰かは故郷へ帰らなくちゃいけないんだ。ルカ、忘れないでくれ。オリーブの樹が繁り、月が明るくて気がおかしくなるくらいの土地、それが俺たちの故郷だ ”
社会の片隅に光を照らし、その対比の際(きわ)に埋もれていく色なき色が、観る者のなかに虹を架ける。
ネオレアリズモの金字塔ここに在り。

動乱の1960年、安保闘争のさなか岸首相は【声なき声】を訴えた。アメリカ大統領選挙でJFKが競り勝った。エポックメイキングがもうひとつある。アラン・ドロン現る。【若者のすべて】に時同じくして公開されたのが、ルネ・クレマン監督作【太陽がいっぱい】伊と仏、モノクロフィルムとカラーフィルムを股にかけて、時代の寵児はデビューを飾った。
刃物のごとく鋭利で冷たい輝きが60年代を席巻する。これにつづき【太陽はひとりぼっち 1962】【地下室のメロディ 1963】【危険がいっぱい1964】【サムライ 1967】【仁義1970】と硬軟自在にキャリアを築くが、スーツスタイルもその軌跡が点と線でつながる。順にナポリ~ローマ~コートダジュール~そしてパリと、さながらコンチネンタルルックの解体新書。画像は地下室のメロディより。直線的なショルダーラインと肩周りの量感、ナローラペルの折り返しからボタン位置にかけての深いVゾーン・・・全体にコンパクトかつ無駄のない機能美は、さながらフォールディングナイフの様相。steel gray =鋼(はがね)色のスーツの内に忍ばせる野心、研ぎ澄まさん。

 

文責在Northern Tailor




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